中沢クリニックだより
夏の号(第60号)

[予防接種が変わっています]
 このところ予防接種のやり方が変わってきて、集団接種から個別接種へ、という大きな流れができています。
昨年度からは、学校での予防接種の制度が変更され、小学校・中学校では予防接種を実施しなくなりました。保護者の責任で医院などで個別に接種を受けることになっています。また、市や町が実施していた乳幼児の集団接種は、ほとんどが個別接種に移行しています。

<今年度からの変更点> 
今年四月から、結核予防法の一部改定があり、乳幼児のBCG接種が大きく変わりました。従来は生後3か月から4才までに実施することになっていましたが、これからは生後6か月未満までに接種することになりました。また、従来ツベルクリン反応をおこなって陰性者にBCG接種をしてきましたが、今後はツベルクリン反応を省略してBCG接種だけをします。
*接種時期は生後6か月未満まで生後3か月から5か月までが望ましい)。
*赤ちゃんの体調が良い時に、かかりつけ医などで個別に受けて下さい。
*生後6か月までの短期間に接種することになりましたので、大変とは思いますが、2年前から小学校・中学校ではBCG接種をしなくなっていますので、この時期に確実に1回受けるようにしましょう。

<当クリニックで実施している予防接種の種類>
 当クリニックでは、BCG,三種混合、麻疹(はしか)、風しん、日本脳炎、二種混合、水痘(みずぼうそう)、おたふくかぜ、インフルエンザ、について予防接種を実施しています。平日の午後に時間をとっていますので、ご希望の方は、できるだけ電話で確認して予約してからおいで下さい。その際は、母子手帳をご持参下さい。

解説シリーズ[心を考える](その3)
PTSD(心的外傷後ストレス障害)(後)
前々回、前回とPTSDについて解説してきましたが、今回、PTSDについての最終回として、経過や治療を中心に解説してみたいと思います。

<どのように経過しますか?>
前回の解説の中に書きましたが、PTSDの症状は、トラウマの後、通常3か月以内に始まりますが、時に、数ヶ月後、または、数年後になって現れることもあります。症状の持続が1か月以上で、PTSDと診断されますが、1か月以上〜3か月未満を急性PTSD、3か月以上持続する場合を慢性PTSD、と分けます。したがって、PTSDがどのような経過をとるか、は一人一人でかなりマチマチです。発症から3か月以内で回復できる人もいれば、慢性化して長期的な治療が必要となり、回復までに長い時間が必要な人もいます。

<PTSDからの回復とは?>
トラウマによって受けた心のキズが回復するには、長い時間がかかる場合もありますが、PTSDは回復可能な病気です。心的外傷の記憶や影響は簡単には消えませんが、それによって日常生活が大きく影響されることがなくなること、トラウマ体験を自分なりに受け入れることができ、「折り合い」をつけることができること、これがPTSDからの回復といえます。つまり、トラウマ体験が消え去ることが目標ではなく、心のキズを抱えながらも日常生活が送れるようになることが回復の目標です。

<どのように治療しますか?>
PTSDの治療は、簡単ではありません。治療の過程では、トラウマ体験を思い起こさせたり、問題に直面させる作業を含むこともあり、一時的には患者さんがかえって不安定になったり、混乱状態におちいったりすることもあります。治療法には、精神療法と薬物療法があります。

[精神療法] 精神療法としては、次のようなものがあります。
*認知・行動療法(外傷体験の曝露療法、認知再構成法、眼球運動による脱感作再処理法、など)
*不安に対する対処法の訓練(リラクゼーション等)
*カウンセリング
最近注目されている治療法に、EMDR(眼球運動による脱感作再処理法)というものがあります。眼球運動と回想・情緒認識を組み合わせた技法で、眼球を左右にリズミカルに動かすことで感情の処理過程を促進し、心的外傷の記憶に伴う苦痛な感情を脱感作するというものです。治療の仕方は、次のようです。まず患者さんに、トラウマ体験を思い出してもらう。そこで治療者が指を一定の速度で左右に動かし、患者さんがそれを目で追うようにします。約30往復の眼球運動を1セットとし、1回の治療で30セット程度を繰り返します。眼球運動によって、脳が何らかの刺激を受け、過去のトラウマ体験に伴う恐怖や不安を処理する能力が活性化されるのではないか、といわれています。

曝露(ばくろ)療法というのは、トラウマ体験を思い出したくないものとしてフタをするのではなく、むしろ、トラウマの記憶に身をさらし、何度も繰り返し向き合うことで慣れを生じさせ、トラウマ体験を乗り越えていくことを目指す治療法です。不安や恐怖を感じる対象について、弱いものから順次強いものへハードルを上げていって、トラウマ体験を思い出しても大丈夫、という状態までもっていきます。

[薬物療法]
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が、まず使ってみるべき薬とされています。他に、抗うつ剤、抗不安薬、なども必要に応じて使われます。

<家族や周囲の人の対処法は?>
PTSDでは、周囲の人々のサポートが、症状をやわらげる上で効果がある、といわれています。具体的には、体験したトラウマについての話によく耳を傾け、本人が安心できる環境を整えられるようにサポートし、不安をやわらげるようにしてあげることです。トラウマに対する治療を早期に開始した方が、PTSDを予防したり、重症化を防いだりするために有効、といわれていますので、早めに専門医を受診するようにアドバイスしてあげて下さい。また、同じような体験をした人たちとの交流が、孤独感をいやすのに効果的、ともいわれています。

<子供のPTSDの対処法>
前号で、子供のPTSDの症状について解説しました。PTSDの子供は、親など養育者から育ちのエネルギーを補給してもらおうと、一時的に幼い頃に戻ろうとします。指しゃぶり、添い寝の要求、赤ちゃんことば、など一般的に「赤ちゃん返り」と呼ばれるものです。また、つらく、寂しく、心細い、自分の心の状態に気づいてもらいたくて、いろいろな症状を見せることがあります。このようなサインを、親や周囲の人々は感じ取ってあげて、回復過程の初期の重要な時期に、「安全・安心の確立と提供」を心がけて下さい。そばに居て、励まし、支持し、温かい感情を向け、助言をし、ケアをします。突き放すことは厳禁ですが、かといって、ケアの仕方を誤ると「依存させやすい関わり」に陥ってしまいます。周囲の人々はケアをすることはできますが、PTSDから回復し立ち直っていくのは、子供とはいえ、本人自身です。そばに居てあげるだけで、何もしてあげられない、と感じてしまうかもしれませんが、それでもその子のそばに居る、一緒に居てあげることで、「あなたも、私も、ひとりぼっちではないんだよ」という相互確認こそがケアのよりどころです。

<最後にはげましのことばを>
PTSDを引き起こす原因として、ずいぶんと悲惨な体験が取り上げられることが多いですが、体験の重さというのは、とても個人的なもので、他の人から見ればほんのささいな出来事が心に大きなキズを残すことがあります。そもそも、トラウマをいっさい体験したことがない人なんて、まずいないのではないでしょうか。誰でも大なり小なりトラウマ体験があるでしょうし、心の中にキズを持っていることでしょう。それでも多くの人は、それを乗り越え、克服して、人生を送っています。自分自身の回復する力を信じたい、そして、自分の回復を願っていてくれる周囲の人の愛を信じたい。

[個人情報の保護管理と情報開示について]
今年4月1日より、個人情報保護法の全面実施に伴い、医療の世界でもいくつか留意すべき点がありますので、解説いたします。

<医療情報の保護管理について>
医療の世界での「個人情報」とは、患者さん個人を特定できる情報、をいいます。つまり、氏名、生年月日、住所、過去の病歴、診断名、診療の内容、処置の内容、検査結果、などです。もともと、医師には患者さんについて知り得たことは秘密を守る、という守秘義務があります。ですから、患者さんについての個人情報を保護するということは従来もやってきたことですし、当然のことと考えております。しかし、今回、個人情報保護法の実施に伴い、改めて、医師だけでなくクリニックの職員全員が患者さんの個人情報を確実に保護管理できるように徹底していきます。

<医療機関における個人情報の取り扱い>
患者さんの診療に際しては、カルテ(診療録)を作成し、病歴や病状について問診をします。つまり、個人情報を取得します。その際、情報の利用目的を明らかにすることになっています。診療のため、保険請求事務のため、紹介状を作成するため、検査センターへ検査を委託するため、などいろいろな目的に利用します。これを、患者さん一人一人にいちいち説明していては大変な手間がかかってしまいますので、ポスターにして院内に掲示しております。これをご覧になっていただくことで説明に代えさせていただきますが、ご了解をいただければ幸いです。
個人情報は、カルテ及び医療事務用コンピューターに「個人データ」として保存してあり、院内で厳密に管理しております。医療事務用コンピューターは、電話回線には接続してありませんので、コンピューターウイルスに侵入されたり、ハッカーに攻撃される心配はなく、データは守られています。

<医療情報の提供・開示について>
患者さんへの医療情報の提供については、検査結果(血液検査、内視鏡検査、超音波エコー検査、など)では印刷物・カラー写真・プリントなどをお渡しして説明しております。病状の説明や生活指導・食事指導などでは、必要に応じて印刷物や冊子をお渡しして説明しております。年4回の「クリニックだより」発行や、インターネットではホームページを開設して、いろいろな医療情報の提供に努めております。これらは、今後さらに充実させていきたいと思います。
治療薬については、「薬剤情報提供書」に薬の名称・効能・副作用を含めた注意事項、などの情報を印刷してお渡しし、情報提供をおこなっています。
医療費の自己負担分については、従来から「明細のわかる領収書」を発行しております。診察料関係、治療薬、検査、自費分、などの料金の明細がわかるようにしております。これも、情報提供の一環と考えております。
当クリニックでは、以上の他に、病院や専門医への紹介、精密検査の依頼、セカンドオピニオンに関するご相談、などに際して、必要十分な医療情報の提供に努めておりますが、さらに、患者さんご自身の個人情報や個人データについて開示のご要望がございましたら、お申し出下さい。

<当クリニックの方針>
診察室・検査室へのお呼び出し、薬をお渡しして会計をする際のお呼び出し、につきましては、患者さんの取り違えを防止するために、従来どおり患者さんのお名前を呼ばせていただきたいと考えております。もし、これについて承諾できない、という患者さんは、ご希望に沿った呼び出し方をさせていただきますので、前もってお申し出下さい。また、患者さんの病状や検査結果などの個人データについて患者さん以外の方から問い合わせがある場合、患者さんの承諾があり、患者さんとの関係が明確な場合のみ、対応させていただきます。電話での問い合わせに関しましても、同様の対応となりますので、ご理解の程お願い致します。


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